文藝散道*お知らせブログ
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2017/02/18 Sat. 08:08
三題小説2
三題:山道 依存 豚
シモソネ作 (2ver.)あります。
山道を抜けたその先に目的の居酒屋は建っていた。席に着いた私に店主が品書きを渡す。
醜い火傷の跡を隠そうともしない気さくな笑顔。『オススメメニュー 豚足!』の文字に、はらわたが煮えくり返る思いがした。
今でも後悔している、私に依存しきった子供たちに自立を促したことを。
今でも忘れられない、粗末な小屋の残骸を目にした時の絶望を。
こんなことで私の罪は消えないけれど、待っててね、愛しい息子たち。外道の皮を被った私はコートのポケットにそっと手を差し入れた。
山道を抜けた先にその居酒屋はひっそりと建っている。店主の狼は顔の古傷を摩りながら取材に応じてくれた。
――人気のメニューは豚足だとお伺いしました。
「おうよ。アレを初めて食ったのはあいつ等を襲った時だ。小賢しく小屋に立てこもったあの三匹の兄弟さ。ケガの功名ってヤツかねぇ」
――よく無事でしたね。
「まぁな。暖炉の窯にはビビったが、熱湯くらいで死んでたまるかよ」
よく言う。命乞いに応じてしまった三男の、あの子の良心に依存して生きながらえたくせに。
でも、今日でこいつの命も終わる。待っててね、愛しい息子達。外道の皮を被った私は懐にそっと手を差し入れた。
-----------------------------
もうエリ作
今日も電話のベルが鳴らないことに、私は不満たらたらだ。
恋人が潜水艦勤務になってしまったことに問題がある。
元から一年の内半分以上は海の上にいる人だったけど、そこから更に連絡を取ろうにも取れない日が増えることになった。
彼と話せない日が続き、私はそれが重大なストレスだということを思い知った。
猪突猛進なところのある私をよく知っている人は、「結婚までいってないのに別れてないなんて不思議」と言う。
その度に私は、彼の同僚の奥様が結婚について口にした、
「山道を登って登って、頂上についたと思ったらまた次の頂きが見える。この職に就いている人の妻になるということは、そんな終わりのない登山のようなものもの」
という話を思い出す。
そんな耐え忍ぶような人生はゴメンだったし、積極的に結婚を選ぶ気は起きなかった。
かといって、じゃあ別れようともならないのだから不思議だ。
私はただ、あの無愛想で無口な男が、必死に言葉を紡いで私に日々のことを伝えようとする、あの時間を欲していた。
もしかしたらそれは依存かもしれない。
恋に夢中な周りの見えない子供ではあるまいしと笑ってしまうが、でもそれだけの価値があるのだ。
離れてる時間が愛を育てるとか、そんな歌が昔あった。
やがてベルがなった。
すぐに電話に出てそうになるのをぐっと堪える。
待ってたことを悟られたくない。
けれど心中は喜びで一杯だった。
不思議なことに待つのも悪いものじゃないなんて思えてしまう。
猪は飼い慣らされて豚になってしまったのかもしれない。
私は平静を装って通話ボタンを押す。
もし彼が結婚しようと言ってきたら、どうしよう。
今なら頷いてしまうかもしれない。
シモソネ作 (2ver.)あります。
山道を抜けたその先に目的の居酒屋は建っていた。席に着いた私に店主が品書きを渡す。
醜い火傷の跡を隠そうともしない気さくな笑顔。『オススメメニュー 豚足!』の文字に、はらわたが煮えくり返る思いがした。
今でも後悔している、私に依存しきった子供たちに自立を促したことを。
今でも忘れられない、粗末な小屋の残骸を目にした時の絶望を。
こんなことで私の罪は消えないけれど、待っててね、愛しい息子たち。外道の皮を被った私はコートのポケットにそっと手を差し入れた。
山道を抜けた先にその居酒屋はひっそりと建っている。店主の狼は顔の古傷を摩りながら取材に応じてくれた。
――人気のメニューは豚足だとお伺いしました。
「おうよ。アレを初めて食ったのはあいつ等を襲った時だ。小賢しく小屋に立てこもったあの三匹の兄弟さ。ケガの功名ってヤツかねぇ」
――よく無事でしたね。
「まぁな。暖炉の窯にはビビったが、熱湯くらいで死んでたまるかよ」
よく言う。命乞いに応じてしまった三男の、あの子の良心に依存して生きながらえたくせに。
でも、今日でこいつの命も終わる。待っててね、愛しい息子達。外道の皮を被った私は懐にそっと手を差し入れた。
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もうエリ作
今日も電話のベルが鳴らないことに、私は不満たらたらだ。
恋人が潜水艦勤務になってしまったことに問題がある。
元から一年の内半分以上は海の上にいる人だったけど、そこから更に連絡を取ろうにも取れない日が増えることになった。
彼と話せない日が続き、私はそれが重大なストレスだということを思い知った。
猪突猛進なところのある私をよく知っている人は、「結婚までいってないのに別れてないなんて不思議」と言う。
その度に私は、彼の同僚の奥様が結婚について口にした、
「山道を登って登って、頂上についたと思ったらまた次の頂きが見える。この職に就いている人の妻になるということは、そんな終わりのない登山のようなものもの」
という話を思い出す。
そんな耐え忍ぶような人生はゴメンだったし、積極的に結婚を選ぶ気は起きなかった。
かといって、じゃあ別れようともならないのだから不思議だ。
私はただ、あの無愛想で無口な男が、必死に言葉を紡いで私に日々のことを伝えようとする、あの時間を欲していた。
もしかしたらそれは依存かもしれない。
恋に夢中な周りの見えない子供ではあるまいしと笑ってしまうが、でもそれだけの価値があるのだ。
離れてる時間が愛を育てるとか、そんな歌が昔あった。
やがてベルがなった。
すぐに電話に出てそうになるのをぐっと堪える。
待ってたことを悟られたくない。
けれど心中は喜びで一杯だった。
不思議なことに待つのも悪いものじゃないなんて思えてしまう。
猪は飼い慣らされて豚になってしまったのかもしれない。
私は平静を装って通話ボタンを押す。
もし彼が結婚しようと言ってきたら、どうしよう。
今なら頷いてしまうかもしれない。
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