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文藝散道*お知らせブログ

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掌編「夕映え」/もうエリ

こんばんは。もうエリです。
文学フリマで買った同人誌の感想を書こうとしていたのですが、諸事情でちょっと停滞しております。
しばらくしたら再開しますのでよろしくお願いします。
その合間と言っては何ですが、書き上げた掌編を紹介させてください。
同人誌で表と裏の絵と挿絵を担当してくださったなっつさんの絵から着想したお話です。
以下がpixivのその絵になります。
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=17191456
素敵な絵ですので見てくださると嬉しいです。それで小説の合間に思い出してくださるとなお幸せ。
では以下本編になります。
『夕映え』


「ん……」
 傾いた夕陽が窓から差し込んで、眩しくって顔を上げた。
 目に入った部屋は落日に染まって黄金色。伸びる影が世界を愉快に象って、少しだけ開いた窓からは遠くの子供達の笑い声がする。なんだか夢見心地で少し頬が緩む。暖かいのは日差しのせいかな。なんだか鼻の奥がつんとして、ぐすっとなる。
 私は座った姿勢のまま、少し体をほぐす。ぎちぎちと音が鳴りそう。じんわりとした疲れが溜まっているのを感じる。隣にある宝物を撫でる。こんなに小さいなんて、あの頃には想像だにできなかった。
「……ありがとう」
 少しだけ目を閉じた。暖かさの中で、目の奥でチカチカと光のプリズムが瞬いていた。

 ◇

 例えば、悲しいことがあっても明日には忘れていて。
 例えば、なんだかいっつも胸が一杯で。
 例えば、日常が続くことに何の疑いもなくて。
 そうでいて。
 そうでいて。

 ◇

「じゃあねー」
 一緒に帰ってくれる近所の子と別れて家に着く。
 お父さんから買ってもらったキーホルダーから鍵を取り出して、鍵穴に差し込んで回すとカチリと扉が開く。わたしの使える魔法。
「ただいまー」
 家に帰って一番にすること、『鍵をかけるコト』
 働いてるお母さんが帰ってくるまで、お留守番するのがわたしのシゴト。
 しんとしている家の空気を壊すようにドタドタと階段を駆け上がる。二階にある自分の部屋のカーテンを開けると、気持ちの良い光が入ってくる。こうしてやっとこの家で呼吸できるようになる気がする。
「早くお母さん帰ってこないかなあ……」
 外からは男の子たちの笑い声がする。何してるのかちょっと気になるけど、『外は危ない』ってお母さんから言われてるし。お母さんの悲しい顔は見たくないから我慢できるもの。
 少ししょんぼりしてしまうけど、でもわたしの部屋だって外に負けないくらい素敵なの。お父さんが「お前と遊ぶ時間あんまり持てなくてごめんな」って困ったように笑いながら買ってくれたプレゼント達。変なものも多いけど、その中でもまだ新しいスケッチブックは一番の宝物。  
 たくさん絵を描こう。この宝物達、今日あったこと、あの空の色、あとは魔法使いの女の子とか。いっぱい。

 少し疲れた顔をして帰ってくるお母さんは、帰ってきて一番にわたしを抱きしめる。なんだかくすぐったい。
「大丈夫だった? 危ないことはなかった?」
「うん。何もないよお母さん。わたし良い子にしてたよ。大丈夫」
 他愛のない言葉。それもわたしが使える魔法。それだけでお母さんは頑張れるんだって。
 今日書いた絵を見ながら遅いご飯を食べて、いっぱいお話しして、少しずつ笑う時間が多くなって。
「絵がうまいのは、手先が器用だったお父さん似かしら」
 優しく撫でてくれる手はお母さんの魔法。優しくて暖かくて、わたしも頑張れる。
 絵はどんどん増えていく。
 窓からの風景でさえ、一日として同じものはないことに気付く。夕日も少しずつ違って、けれども同じように胸をうつ。きっとこれも魔法かな。
 素敵なことが多すぎて、わたしの心は追いつくだけでせいいっぱい。見とれてる間に一日が終わる。

 いつ頃からか、お母さんは一週間に一度花を持って帰ってくるようになった。色んな花は、わたしの格好のモチーフになった。
「でもお母さん、これどうしたの?」
「お母さんも最初分からなかったんだけど、ついこないだ謎が解けました。後色々ね」
 そう言っていたずらにくすくすと笑うお母さん。
「えー、なにそれー。どういうことか教えてよー」
「んー、内緒。きっと夏月にもそのうち分かるよ」
「ずるいー。教えてー教えてー」
「夏月だって内緒にしてることくらい、あるでしょ?」
 その言葉に思わず押し黙ってしまう。そりゃあ隠してることくらいある。でもそれはお母さんを心配させないためなのに。
 例えば、絵ばかり描いて暗いと言われること。
 例えば、お父さんがいなくて同情されること。
 例えば、家に閉じ込められてるんじゃないかって噂されてること。
「そういえば伊織くんとは仲直りした?」
 ふるふると首を振る。いおりくんはわたしが閉じ込められたお姫様みたいだってバカにしたから。
 何もできずに外を眺めてるお姫様とわたしは違う。違うのに。少し涙がこぼれたのは何でだろう。その日は絵も描けなかった。
「そっかー。前途多難なのかな。……でも脈がないわけじゃないっと」
 なんてことを言いながら笑顔でわたしを撫でる。親の心子知らずじゃなくて、子の心親知らずだ。

    ◇

「ただいまー」
「ん……」
 玄関からの声で目が覚める。寝てた時間はわずかだったみたいで、まだ部屋は明るい。トントンと階段を上がってくる音。
「樹ー、夏月ー。帰ってきたよー」
 私はしーっと唇に指を当てる。
「寝ちゃった。お仕事お疲れ様」
 静かにそう言う。手にした花を見て思わず顔がほころぶ。これも魔法だった。ずいぶんと気付くのに時間がかかったけれど。
「夏月もお疲れ様」
 ぎゅうっと抱きすくめられる。なんだか既視感。外の匂いと少しだけ花の香り。
 コホンと、わざとらしく咳をする。
「それで王子様、私がお姫様だとしたら何て言うつもりだったの?」
 意地悪なことを言ってしまうのは誰に似たんだろう。
「またそれ?」
 困ったように笑う顔は誰かに似てる気がする。私はこの顔が見たくて、いつもこの質問をしてしまう。
「多分こういうこと」
 そのまま優しく口付けされる。
「ずるいなあ……いっつもそう……」
 そのまま少しの間――、
「ほだされちゃう夏月が好きだよ」
「本当に口が上手いんだから……」
「三人ともー、ご飯よー」
 階下からお母さんの声がする。
「はーい」
 眠っている樹を大切そうに伊織くんが抱えて、私も部屋を後にしようとする。
 ふいに後ろ髪を引かれて振り返ると、部屋には絵を描いてるいつかの誰かが見えた。時々外を眺めるその姿に少し胸が締め付けられる。
「……大丈夫」
 だから私は魔法をかける。
 きっと悲しいことがあっても忘れていけるよ。
 きっと一日には抱えきれないくらいの素敵なことがあるよ。
 きっと毎日は続いていくよ。
 そうだよ。
 それはどこかで私が聞いた言葉。
 部屋の中の私が笑ったような気がした。


<了>

読んでくださった皆様ありがとうございました。
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