文藝散道*お知らせブログ
SNS発・創作サークルが文学フリマに出展します!
2014/04/27 Sun. 05:25
5月5日文学フリマでの新刊について(千月編)
みなさんこんにちは。千月です。
今回はもう9日後に迫った(!)文学フリマでの新刊について筆を取らせていただきます。
うららかな(ていうか暑い)午後のひと時、どうかお付き合いくださいませ。
新刊『君と紡ぐ幻想』より、今回は各作者の描いた冒頭部分を少しだけお見せいたします。
購入時の参考にされるもよし、購入時の参考にされるもよし、購入時の参考にされるもよし……。
まぁ冗談はさておいて。
文藝散道という世界に浸る、その一助となれば幸いです。
ではまず、不肖わたくし、千月の作品から。
今回はもう9日後に迫った(!)文学フリマでの新刊について筆を取らせていただきます。
うららかな(ていうか暑い)午後のひと時、どうかお付き合いくださいませ。
新刊『君と紡ぐ幻想』より、今回は各作者の描いた冒頭部分を少しだけお見せいたします。
購入時の参考にされるもよし、購入時の参考にされるもよし、購入時の参考にされるもよし……。
まぁ冗談はさておいて。
文藝散道という世界に浸る、その一助となれば幸いです。
ではまず、不肖わたくし、千月の作品から。
『恋に焦がれて鳴く蝉よりも、』
空が群青に変わる頃。狩りから戻り、住処である洞窟の入口まで来て、わたしはやっと息を吐いた。
頭を押さえる。雪童に氷か、石入りの雪つぶてをぶつけられたところが、瘤になっているのだろう、じくじくと痛んでいた。
『出来損ないだ! 出来損ないが歩いている!』
童ならではの無邪気で残酷な勢いでぶつけられた言葉を思い返して、胸が痛くなる。
でも、このくらいで済んでよかったかな。ほかの誰かが出て来ていたら、もっと酷いことをされたり言われたりしていただろうから。
黒髪に碧の瞳、銀の鱗。人間のようでありながら元である蛇の部分も残したわたしの身体は、いつもほかの経立や妖怪たちの侮蔑と嘲笑の的だ。出歩くことを許されているのは夜更けから朝にかけての、ほんの数時間だけ。そこからすこしでも外れたなら殺されても文句は言えない立場にいる。
つまるところは、醜い、そういった理由で。
洞窟の中に入ると、夜光虫の蛹があわく明滅していた。……昔はこれをぼんやり眺めることと、夢を見ることだけが幸せだったっけ。まだ半月も経っていないのに、何年も前のことみたいだ。
「ケイ、」
「鈴さん!」
呼び掛けると、奥の開けたところでうろうろしていた人間が振り返って相好を崩した。でもその顔はすぐに心配そうなものへと変わり、わたしは慌てて頭を押さえていた手を離す。相手は軽薄のケイって呼んでなんて言うくせに、物凄く心配症なのだ。
「なにかあったの? 苛められた?」
「だいじょうぶだよ、つぶてをぶつけられただけ」
「だけ、じゃないでしょう。まったく」
ぶつぶつ文句を垂れながら、ケイはわたしの頭を診ようとする。そんな気持ちだけで飛び上がるほど嬉しくなってしまって、自分よりも頭ふたつは高いケイに飛びついた。うわっと声が上がり、力のない身体が、わたしを受け止めたままで岩の出っ張りに尻餅をつく。
「ああもう、」
それでも怒りもせず、ただどうしようもないなという風に笑ってケイはわたしの髪を撫でてくれた。そんなことをしてくれるのは、この山を治める山神さまの領域がいくら広くてもケイだけだ。
ボウと光る蛹たちが、わたしたちふたりを仄かな明るさで照らしている。ふっとそれに目をやると、ケイもわたしの視線を追いかけた。
そして、ああ、と目が半分隠れるくらいに伸びた奇麗な茶髪を掻きあげる。わたしはケイの澄んだ、髪と同じ色の瞳と、光る蛹とをこっそり見比べて、ほう、と息を洩らした。どちらも、信じられないくらい奇麗だ。もっともそんなことを言えば、ケイはわたしの方が奇麗だと反論するのだけれど。
「夜光虫って、俺の認識では海に居る虫だったな。いや、虫だったかもわからないけど」
「こっちの夜光虫も、よくわからない虫だよ。蝶になったり蛾になったり、小金虫になるのもいるの。わたしは見たことがないけど、蛍もいるんだって」
ケイが懐かしむような目になりかけたのを察して急いで口を挟むと、岩壁を眺めていた目がこちらを向いて、顔ごとクシャッと笑った。
……ケイは元は死を望んで冬山に登り、知らずのうちに山神さまの領域に入って来た人間だ。
凍死しようと目論んでいたけれど、死ぬより嫌な幻を見てしまい。偶然通りかかったわたしの、鱗が立てる鈴のような音に救われたのだと語っていた。
わたしを『鈴さん』と呼ぶのは、その鱗が立てる音の響きが好きだから、らしい。
そうしてそれから、わたしが幻から助けた借りを返すためにと一緒にいる。本当のことを言うなら、ずっと独りで寂しかったわたしはケイがいるだけで満たされているから、死んで欲しくないし、借りを返す方法なんて見つけて欲しくないんだけど。
______
いかがでしたでしょうか。
続きは文学フリマ、ブースD61より販売される新刊『君と紡ぐ幻想』よりお買い求めいただけます。
拙作が文藝散道という道を歩むその一助となれば幸いです。
では、続いての記事ではたけぞう先生の作品をご紹介したいと思います!
空が群青に変わる頃。狩りから戻り、住処である洞窟の入口まで来て、わたしはやっと息を吐いた。
頭を押さえる。雪童に氷か、石入りの雪つぶてをぶつけられたところが、瘤になっているのだろう、じくじくと痛んでいた。
『出来損ないだ! 出来損ないが歩いている!』
童ならではの無邪気で残酷な勢いでぶつけられた言葉を思い返して、胸が痛くなる。
でも、このくらいで済んでよかったかな。ほかの誰かが出て来ていたら、もっと酷いことをされたり言われたりしていただろうから。
黒髪に碧の瞳、銀の鱗。人間のようでありながら元である蛇の部分も残したわたしの身体は、いつもほかの経立や妖怪たちの侮蔑と嘲笑の的だ。出歩くことを許されているのは夜更けから朝にかけての、ほんの数時間だけ。そこからすこしでも外れたなら殺されても文句は言えない立場にいる。
つまるところは、醜い、そういった理由で。
洞窟の中に入ると、夜光虫の蛹があわく明滅していた。……昔はこれをぼんやり眺めることと、夢を見ることだけが幸せだったっけ。まだ半月も経っていないのに、何年も前のことみたいだ。
「ケイ、」
「鈴さん!」
呼び掛けると、奥の開けたところでうろうろしていた人間が振り返って相好を崩した。でもその顔はすぐに心配そうなものへと変わり、わたしは慌てて頭を押さえていた手を離す。相手は軽薄のケイって呼んでなんて言うくせに、物凄く心配症なのだ。
「なにかあったの? 苛められた?」
「だいじょうぶだよ、つぶてをぶつけられただけ」
「だけ、じゃないでしょう。まったく」
ぶつぶつ文句を垂れながら、ケイはわたしの頭を診ようとする。そんな気持ちだけで飛び上がるほど嬉しくなってしまって、自分よりも頭ふたつは高いケイに飛びついた。うわっと声が上がり、力のない身体が、わたしを受け止めたままで岩の出っ張りに尻餅をつく。
「ああもう、」
それでも怒りもせず、ただどうしようもないなという風に笑ってケイはわたしの髪を撫でてくれた。そんなことをしてくれるのは、この山を治める山神さまの領域がいくら広くてもケイだけだ。
ボウと光る蛹たちが、わたしたちふたりを仄かな明るさで照らしている。ふっとそれに目をやると、ケイもわたしの視線を追いかけた。
そして、ああ、と目が半分隠れるくらいに伸びた奇麗な茶髪を掻きあげる。わたしはケイの澄んだ、髪と同じ色の瞳と、光る蛹とをこっそり見比べて、ほう、と息を洩らした。どちらも、信じられないくらい奇麗だ。もっともそんなことを言えば、ケイはわたしの方が奇麗だと反論するのだけれど。
「夜光虫って、俺の認識では海に居る虫だったな。いや、虫だったかもわからないけど」
「こっちの夜光虫も、よくわからない虫だよ。蝶になったり蛾になったり、小金虫になるのもいるの。わたしは見たことがないけど、蛍もいるんだって」
ケイが懐かしむような目になりかけたのを察して急いで口を挟むと、岩壁を眺めていた目がこちらを向いて、顔ごとクシャッと笑った。
……ケイは元は死を望んで冬山に登り、知らずのうちに山神さまの領域に入って来た人間だ。
凍死しようと目論んでいたけれど、死ぬより嫌な幻を見てしまい。偶然通りかかったわたしの、鱗が立てる鈴のような音に救われたのだと語っていた。
わたしを『鈴さん』と呼ぶのは、その鱗が立てる音の響きが好きだから、らしい。
そうしてそれから、わたしが幻から助けた借りを返すためにと一緒にいる。本当のことを言うなら、ずっと独りで寂しかったわたしはケイがいるだけで満たされているから、死んで欲しくないし、借りを返す方法なんて見つけて欲しくないんだけど。
______
いかがでしたでしょうか。
続きは文学フリマ、ブースD61より販売される新刊『君と紡ぐ幻想』よりお買い求めいただけます。
拙作が文藝散道という道を歩むその一助となれば幸いです。
では、続いての記事ではたけぞう先生の作品をご紹介したいと思います!
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